『飲食店専門』社労士
ポプラ社会保険労務士事務所
〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内1-8-39 HP丸の内301
名古屋市営地下鉄鶴舞線、桜通線「丸の内駅」8番出口 徒歩1分
営業時間 | 平日9:00~18:00 (電話受付時間 平日9:00~20:00/ 土曜・日曜・祝日 9:00~18:00) |
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定休日 | 土曜・日曜・祝日 |
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◆採用
Q20 採用選考のために応募者に健康診断を受けさせることはできるか?
◆退職・解雇等
Q14 「会社都合退職にしてくれ」と退職者から言われたら拒否できるか?
◆残業
Q3 残業代不払いで労働基準監督署から調査の通知が来ました。どうすればいい?
Q26 毎月する変動するインセンティブ、業績給、歩合給などは残業単価に入りますか?
◆労働時間・休日・休憩
Q19 15分単位の時給計算は、違法、適法? なぜ、他の飲食店でもやってるのか?
Q4 まとめて1時間の休憩が取れないが、休憩時間は分割で与えられないか?
Q29 パン屋の製造部門のように、手待ち時間が多い場合は、労働時間から除外できますか。
◆給料、休業手当
Q2 スタッフに接客のセミナーを受けさせたい。セミナー受講時間も給料を払うべき?
Q23 1日の一部を休業した場合や途中で帰らせた場合、休業手当は必要か。
◆有給休暇
Q25 退職予定の社員が有給休暇の買取りを求めています。応じるべきでしょうか。
Q28 有給休暇の残日数を給与明細等で通知する義務はあるか?
Q30 退職日より後の有給休暇の申請は、認めなければならないか? また有給休暇の買いりの
義務はあるのか?
◆労災・雇用保険・社会保険
Q24 2022年10月からの社会保険適用拡大、シフト制の人の週20時間以上の判定はどうすべき?
◆服務違反
Q8 社内恋愛(不倫)をしている社員とアルバイトを解雇できないか?
Q9 茶髪やアクセサリーの着用を禁止している場合、違反する社員を処分できるか?
◆異動命令
◆副業
◆その他
18歳未満(15歳年度末経過)の者は、年少者といい、労働時間などに制約があります。
◆残業の禁止
飲食店では、原則、18歳未満(年少者)のスタッフに1日8時間、週40時間を超える労働はさせることができません。
次の変形労働時間制は、例外として、1日8時間、週40時間を超える労働をさせることができます。
(1)1週間のうち、1日の労働時間を4時間以内に短縮することにより、他の日の労働時間
を10時間まで延長することができます。
(2)1日8時間、1週間48時間を超えない場合には、1ヵ月単位・1年単位の変形労働時間制
によって働いてもらうことができます。
◆深夜業の禁止
飲食店では、18歳未満のスタッフを『夜22時から朝5時まで』働かせることは労働基準法違反になってしまいます。
外部の研修やセミナーに会社の命令で参加させる場合は、労働時間とみなされます。
アルバイトの場合は、その時間分、時給を支払う必要があります。
研修やセミナー料金も会社持ちで、時給を払うとなるとなると、ますます外部研修を受けさせるのは難しいと思う経営者の方もいるでしょう。この辺は、助成金などを活用する手もあります。
一方で、従業員が会社からの指示がなく自ら望んで研修を受ける場合は、セミナー費用も、時間給も払わなくてよいでしょう。ただし、接客セミナー等で業務に直結する研修でなんとなく全員が受けていたり、従業員が断ることができないような状態にある場合は、会社の命令で参加させる研修として、時給やセミナー費用も会社が持つべきだと判断される可能性があります。
労働基準監督署の調査は、悪質なケースを除いては、処罰することが目的ではなく、将来に向かって、法律を守ってもらうということが重視されるので、真摯に対応するのが一番です。
残業の調査は、次のようなことが調べられることが多いです。
・出退勤記録と賃金計算(賃金台帳)があっているか。
・賃金台帳の内容は法律を満たしているか(深夜、休日、時間外労働時間などの記載)
・出退勤の記録と実際の労働時間があっているか
・時給計算は1分単位で計算されているか(月ごとで30分未満切り捨てはOK)
・36協定の範囲内の時間外労働に収まっているか
・残業単価の算出は正しいか
一般的な調査は、会社が提出した書類だけを確認することになります。
場合によっては、従業員へのヒアリングやタイムカードなどと社内システムやPCのログイン記録などが調べられることもあります。
◆労働基準監督官の調査の注意点
・冷静に話し合う。監督官は常に労働者の味方であるとは限りません。
法違反を是正することが目的ですので、労働者がおかしなことを言っていると判断するこ
ともあります。真摯に向き合って、話し合うことが重要です。
・嘘をつかない。記録の改ざんをしない。
悪質と判断された場合は徹底的に調べられ、書類送検される可能性もあります。
結果として、○時間分の時間外手当を○月○日までに支払いなさい(※)とか、賃金を再計算し、不足分を支払いなさいという是正勧告が出ることもあります。
是正勧告が出た場合は、必ず○月○日までに改善しなさいという期日が決められます。
どう改善したかは是正報告書という書類で、期日までに労働基準監督署に報告することになります。
※未払い賃金の支払い命令
労働基準監督官が会社に対して、残業代や未払い賃金の「支払い命令」をすることは、本来はできません。労働基準監督官が、労働基準法上、使用者に対して、同法に違反して支払われていない賃金の支払いをするよう勧告はできるが、支払いを命ずる権限はありません(「労働基準監督機関の役割」に関する質問主意書 平成22年10月29日 村田吉隆衆議院議員)。
債務不履行の未払賃金の額を確定できるのは、当事者の合意か裁判所だけです。
労働者が持っている労働時間の証拠と会社の労働時間の記録が異なる場合は、「会社と労働者の当事者で話し合い、金額を確定させます。」という話を監督官にすることも多いです。
店を閉めずに通しで営業している飲食店の場合、バイトはまだしも、社員の休憩については、「毎日まとめて1時間の休憩を取らせるなんてちょっと難しい......」っていうのが経営者の本音だと思います。
必ずしもまとめてとってもらう必要はないんです。
分割で休憩を取ってもらえばOKなんです。例えば、20分ずつ計3回取ってもらえれば、1日で1時間になりますよね。
「20分単位で3回とる」「食事休憩は40分、残りの20分は○時から○時の間に取る」というような形であれば、休憩もとりやすくなるんじゃないでしょうか。
◆注意点
ただし、暇な時間に来客を待ちながら店舗内で休憩をとる場合は、労働から完全に解放されていないので、基本的には休憩と認められません(労働時間になります)。
また、体が休まらないほど短い休憩時間は、休憩時間として認められない可能性が高くなります。15分くらいが休憩時間の最小単位の目安と考えてください。
◆そもそも、何時間働いたらどれだけの休憩が必要?
法律では、1日の労働時間ごとに必要な休憩時間が決まっています。
労働時間 休憩時間
6時間以下= なしでOK
6時間超 = 45分以上
8時間超 = 60分以上
1日6時間以下の場合は休憩時間なしでOKです。
6時間を超えて働いてもらう場合は、バイトも社員も関係なく休憩を取らせる必要があります。
経営者にとっては非常に厳しいですが、休業の理由が会社の都合や責任で飲食店を営業できなかった場合は、平均賃金の6割以上の休業手当の支払いが必要になります。
休業手当を支払う必要があるのは、その人が働く予定だったのに会社のせいで休みになった日です。
営業停止になった日に出勤する予定じゃない人に、支払いは必要ありません。
例えば、2日間営業停止で、1日しかシフトが入っていない場合は、1日分の休業手当を支給すればOKです。
本来だったら従業員は働けたはずだが、経営側の責任で、働けなくなったので、給与を補償せよということです。
取引先から食材の材料が届かないなどの場合も同様に会社都合と判断されてしまいます。
取引先をいくつか確保しておくのも会社の責任だという考え方でしょう。
◆新型コロナウイルスは?
新型コロナウイルスが原因の休業も厚生労働省の見解では、会社都合の休業とされています。
会社都合の休業かどうかは、①外部要因が休業の原因か②経営者として最大の注意を尽くしても避けることのできない事態かの2つの基準で判断されます。
コロナで緊急事態宣言が出ている場合、①については会社に原因はないと思われますが、②は微妙で会社に原因があるといわれる可能性もあります。
緊急事態宣言が出ていても、テレワークや配置転換で休業の回避が可能な場合もあるでしょうし、飲食店であれば、ウーバーイーツを導入して配達できるようにすれば、休業を回避できる=会社都合の休業と判断される可能性があります。
コロナが会社都合の休業になる可能性が高いことには、納得いかない経営者の方もいるでしょうし、私としてもあまり納得はいっていないのです。ただ、雇用調整助成金の特例もあるので、特に大きな議論にはなっていないですね。
コロナの休業は『Q.24 一日の一部を休業した場合や途中で帰らせた場合、休業手当は必要か?』もご参考ください。
ちなみに、震災による計画停電や休業の場合は、経営者に責任はないので、休業手当を支払う義務はありません。
従業員が何人いても個人経営の飲食店に社会保険の加入義務はありません。
法人の場合は、加入義務が生じます(代表取締役一人の会社でも加入義務あり)。
あまりない事例ですが、個人事業の飲食店で社会保険に任意加入したい場合は、従業員の2分の1以上の同意などを取り付けて加入することができます。
この場合、従業員の2分の1以上の同意があっても事業主の加入義務が生じるわけではありません。また個人事業で社会保険に任意加入しても事業主本人は、社会保険に加入できません。
■今後、法改正により、個人事業の飲食店に社会保険加入義務が課せられる可能性は十分
考えられます。
実際、令和4年10月から弁護士、税理士、社労士などの事務所も常時5人以上雇う場合は、社会保険が強制加入になりました。
労災保険は業種に関係なく、1人でも雇用していれば、労災保険加入の義務があります。
飲食店でも、1人でも雇っていると労災保険に加入します。
その一人が1日1時間しか働かなくても、加入する必要はあります。
飲食店の会社負担分の労災保険料は0.3%(令和4年4月時点)なので、1年間の給料合計が500万円の場合、1年間の労災保険料は15,000円になります。
労災保険料は、全額事業主負担です。
◆労災保険の加入手続きは?
労災保険の加入手続きは、労働基準監督署に「労働保険保険関係成立届」と「労働保険概算保険料申告書」を出します。
1年に1回、保険料の確定申告の手続き(年度更新)がありますが、入社や退社時に従業員個別に手続きをする必要はありません。
◆本当によくある勘違い
飲食店の場合、飲食店の任意保険や飲食組合の保険に入っている場合がありますが、組合の保険に入ったからと言って労災保険の加入しなくていいわけではありません。
こうやって言うとびっくりされるオーナーもいらっしゃいますが、
組合の保険は労災保険のプラスアルファの上積み保険であることが多いです。
組合の保険に加入している方で、一緒に労災に入っていると思われているオーナーさんは、一度組合の担当者にご確認ください。
一般的に恋愛は、私生活上の私的な行為なので、会社が口をはさむことはできません。
基本的には、私生活上の行為に対して、会社が懲戒処分をすることはできないのです。
ただし、今回のケースは、社内恋愛をしているため、周りに悪影響を与えていたり、仕事が著しく遅れていたりする可能性も高く、実際に仕事に支障をきたしている場合は、服務規程違反での懲戒処分できると考えます。
また、店長とアルバイトが社内恋愛している結果、通常の業務が進まないようなことがあれば、配置転換はやむを得ないでしょう。解雇できないわけではないですが、それだけを理由にというのはとても難しいことなのです。
実際にバスの運転手とバスガイドの不倫が原因の解雇が有効とされた裁判例(長野電鉄事件)があります。この場合はバスの運転手とバスガイドという関係の特殊性を考えると、放置することは正常な業務運営ができないと判断されたものです。
茶髪やひげなどは、本人の人格に結び付いたものなので、理由なく禁止することはできません。職場秩序の維持という根拠だけ強制的に禁止にすることも難しいです。
飲食店の場合、不衛生な場合や業態によっては、顧客サービスに影響する可能性があるので、禁止することに合理性があると考えます。
和のコンセプトを大切にし、着物を着用し、接客するような飲食店は、金髪では勤められないでしょう。また繊細な香り等を楽しんでいただく飲食店ではきつい匂いの香水などは禁止しても業務上必要と考えられる可能性があります。また、調理担当の場合は、衛生面から指輪や時計を外すように指導するのは当然のことです。
事前に店舗から本人に伝えていたのにこのような違反をしたことに、処分を科すことは問題ありません。しかし、ただ単に茶髪だからといって、懲戒処分を科すことはできないでしょう。
どちらにしろ、派手な髪色や匂いのきつい香水やアクセサリーをつけて働くことが難しい場合は、事前に面接時に本人に確認し、店の姿勢を示したほうが良いでしょう。
労働基準法16条の賠償予定の禁止に違反するので罰金規定は無効です。
私が学生だったころ、20年くらい前は、遅刻で罰金とかよくありましたが、その当時から法違反です。
そもそも罰金というものは、国が犯罪に対して刑事罰として行うもので、会社が従業員に対し、勝手に課すことができるようなものではないんです。
同じ遅刻でも、「1分の遅刻」も「3時間の遅刻」もありますし、遅刻の理由も「事故に巻き込まれた」場合も、「寝坊」もあるのに、すべて一律で3,000円の罰金を取ることは、おかしいですしね。
もちろん、1時間の遅刻に対して、1時間分の減給処分をする場合、ノーワーク・ノーペイの原則(働いた分にだけ給与を支給する考え方)により当然合法と考えます。
また就業規則に定める懲戒処分として、金額を指定せずに減給することは可能です。
その場合は、遅刻した従業員に対し、減給することに合理性があるかが問題となります。
詳しい事情を伺わないと何とも言えませんので、当事務所の無料相談をご利用下さい。
基本的には、スマホを見ていたなどの大きな過失や故意でぶつけていない場合は、請求するのは難しいでしょう。
お店が経費で買ったものを従業員が壊したからと言って、従業員に請求するのは筋違いですし、モノは誰が使っていてもいつか壊れるんですから、故意か重過失でない限り請求するのは現実的ではないです。
また従業員が配送車を運転することで会社は利益を得ているわけですから、会社の損害賠償請求権の範囲は狭くなります。
仮に、従業員が重過失や故意で事故を起こしても、実際に修理代を負担させることができる範囲は、実損害金額の一部です。実際の裁判例を見ると、よっぽど悪質でない限り、従業員への損害賠償は実損金額の1割から3割が多いです。
また会社の配送車が車両保険に入っていれば、請求するのは難しいでしょう。
最近では、配送車を運転する従業員を限定し、「事故を起こした場合、車両の修理代は全額負担」という契約書を結ぶ場合もあります。それでも、修理代の全額負担はさせて、従業員から車両代の負担は不当だと訴えられれば、認められることは難しいでしょう。
どのくらい修理代を払わせることが適当かというのは、さまざまな事情が考慮されるので一概には言えません。例えば、過酷な残業が重なり、疲労が蓄積された状態での事故の場合、従業員に請求できる金額は限りなく少なくなるでしょう。
転勤命令は、会社に認められた権利です。飲食店でも同様で、転勤に関する業務上の必要性があり、不当な動機・目的がない場合は正当な権利として認められます。
ただし、そのためには就業規則や雇用契約書に転勤(配置転換)の規定が必要となります。「業務上の必要性により、勤務地、所属、別の店舗に転勤させ、又は職種を変更を命じることがある。異動を命じられた社員は正当な理由がない限り拒むことができない」というような規定が一般的です。
◆転勤の要件をまとめると次のようになります。
1.就業規則や雇用契約書に転勤について定めていること
2.雇用契約を結ぶときに、勤務地を限定していないこと
3.業務上の必要性があること
4.不当な目的・動機がないこと
5.通常受け入れられる程度を著しく超える不利益がないこと
「5.通常受け入れられる程度を著しく超える不利益がないこと」とは、転勤の対象の店長にとって著しい不利益がある場合は、転勤命令が権利の濫用(らんよう)にあたり、無効ということです。
一般的には、単身赴任になる程度のことであれば、著しい不利益があるとは言えません。
例えば、店長本人しか病気の家族を介護できず、その病気の家族が転勤先についてこられない場合や店長本人の病気のため単身赴任をすることができない場合は、転勤命令は難しくなります。
平成13年の育児介護休業法の改正で、子の養育や家族の介護状況に対する配慮義務が定められており、昨今の時代背景を考えてもある程度の配慮が求められます。
ここでいう配慮とは、転勤の内容や必要性について十分に説明し、家庭の事情を聴きとること、転勤を考慮する時間的余裕を与えること、転勤がいたずらに長くならないようにすることなどがあげられます。
退職後、同業である飲食店への転職を制限すること(競業避止:きょうぎょうひし)は、退職者の職業選択の自由との兼ね合いがあるので簡単にはできず、特別な根拠が必要です。
また、就業規則に競業避止の定めをするだけは十分ではなく、退職者との個別の合意書を作成したほうが確実といえます。
仮に、退職直後の競業避止義務(他店への転職)が有効だとしても、実際に退職し、本人が勝手に就職してしまえば、転職を止めることは困難です。ライバル店舗に転職した従業員を訴えたとしても裁判は時間がかかりますし、裁判が終わるころには、退職後1年は経過すると思うので、競業避止義務自体が抑止力的な効果に留まるでしょうどまるでしょう。
もちろん、会社の企業秘密等や顧客名簿を違法に取得したりすれば、それはまた別の損害賠償請求の話や犯罪の話になりますので、競業避止が認められないからと言ってこれらの損害賠償請求も認められなくなるわけではありません。
ほかの飲食店への転職を制限することが裁判等で有効だと判断されるためには、その必要性や退職者の地位や仕事内容が制限するのにふさわしいか、さらに制限する期間や地域は明確か、ほかに制限への代償措置はあるか、という要件が考えられます。
◆必要性・職種
飲食店への転職を制限する目的は、企業秘密の保護が一般的で、レシピなどの企業秘密に接する機会が相当程度ある店長の場合は、その必要性があると考えられます。企業秘密に接することのないアルバイトまで制限することはできません。
◆制限する期間、地域
制限できる期間は、その必要性や代償措置によりケースバイケースですが、1年が限度と考えるのが一般的です。地域に関しては、広くても同県内や隣接県など限定することが多いです。これもケースバイケースで地域は限定しなくてよい裁判例もありますが、有効性には疑問が残ります。
◆代償措置の有無
金銭的な代償措置は重要な要素と考えられ、在職中の機密保持手当や退職金増額があることが望ましいです。裁判例では、本来より少ない退職金では制限への補償としては不十分とされたものがあります。なお、この転職制限(退職後の競業避止)に違反をした場合、裁判例では退職金の不支給・減額、損害賠償請求、競業行為の差止めが争われることが多いです。
自ら退職を申し出た人が、あとから退職事由を「会社都合に変えてほしい」と言ってくることがあります。
結論から言いますと、事実に即して自己都合退職で処理をしているのであれば、退職者が言っていることが間違っているので、放っておいてもかまいません。
ただし、そういうことを言ってくる方は、解雇されたと言ってきたり、残業代請求など会社に要求してくる可能性があります。
自己都合による退職を会社都合の退職として、雇用保険の資格喪失手続きをすれば、不正処理となり、罰せられる可能性がありますので、会社都合にする必要はありませんが、本人に事情を確認する必要があります。
それはそうと、なぜ、会社都合退職にしたいかというと......
(1)失業手当を早くもらいたいから
(2)モメた結果、自己都合退職になったが、やっぱり納得いかない。
話すことができるなら「なぜ、会社都合にしてほしいのか」を本人への確認をし
てください。
(1)の場合
会社都合にすると失業手当が早く、場合によっては金額も多く貰えるんです。
会社が何もしていないのに自ら退職を申し出た方の場合は、丁重にお断りしてくだ
さい。
(2)の場合
事実がどうであれ、一度モメた退職者が主張しだしたら、まず、相手の主張と要求は
何かをしっかり確認してください。
法律で認められた権利である『時季変更権』と会社側からのお願いの『時季変更の申し込み』の2つのアプローチがあります。
(1)時季変更権(有給休暇の取得日を変更すること)
会社が、有給休暇を使用する日を変更することができます。ただし、非常に厳しい条件を満たすことが必要です。
主な条件は「業務の正常な運営をさまたげる事由」があること。
この事由は、ただ単に業務多忙であったり、慢性的な人手不足という事由だけでは不十分です。有給を使用する人の代わりの従業員を探したり、ほかの人の勤務予定の変更しても、代わりの労働者を確保できない場合に認められる場合があります。
裁判例から抜粋して理由を挙げると、
・1ヵ月間という長期間の年休を請求した場合(時事通信社事件 H4.6.23 最高裁)
・年休を取得しようとする日の仕事が、担当業務や所属部・課・係など一定範囲の業務運
営に不可欠で、代替者を確保することが困難な状態を指す(新潟鉄道郵便局事件 S60.3.11
最高裁)
などなどです。
飲食店は、基本的には代替要員はいますので、有給休暇の日程変更は難しいってことです。
「有給休暇を取らないでくれ!」とはいえませんが、お願いならできます。それが次の「時季変更の申し込み」です。
(2)時季変更の申し込み
時季変更の申し込みとは、経営者や店長が「この日に人数が少なくなると困るから、別の日にしてくれない? どうしてもその日がよいなら仕方ないけど」と有給休暇の申請をしてきた従業員に頼むことです。
これは、ただのお願いなので、従業員が「この日に休みたいんです」と言えば、その日に有給休暇を使用することを止められません。
ただ、法律的に、経営者や上司が、有給休暇の申請を出されたら、有無を言わさず、有給休暇の使用を承認すべきだってことではないということです。
もちろん、会社側からのお願いなので、これを断ったからといって従業員に不利益な取り扱いをしてはいけないです。
業務運営上の理由で担当職務や働く場所を変えるのは、会社に認められた人事権の範囲です。
雇用契約書(労働条件通知書)や就業規則の記載は、「業務上の必要性により、勤務地、所属、別の店舗に転勤させ、又は職種を変更を命じることがある。異動を命じられた社員は正当な理由がない限り拒むことができない」のような記載が多いです。
正当な人事異動だと認められるのは、一般的に次のような場合です。
(1)人材育成
育成のため別業態やセントラルキッチンを学ばせる
(2)企業戦略、事業計画の達成
新店舗を立ち上げる、マネージャーに昇格させる、転換した経営方針の達成のため
(3)適材適所の配置
より適性が高い職種や店舗に配置するため又は適性が低い職種や店舗からの配置を変
更する
(4)不正防止、組織の活性化
同一の店舗で何年も所属していることで、不正が起こりやすくなり、ブラックボック
ス化するのを防ぐことや停滞した組織を活性化させるため
(5)欠員の補充
退職や異動での欠員の補充
また正当な人事異動だと認められていても、もめる要因となるので、雇用契約書や就業規則に人事異動について記載すべきでしょう。
職種や勤務地を限定した雇用契約の場合は、本人の同意なしで変更することはできないとの裁判例もあります。しかし、会社の業務上どうしても必要な場合もありますので、職種や勤務地を限定している雇用契約にも配置転換がある旨を記載する必要があります。
どちらにしても、本人が慣れ親しんだ店舗業務から、畑の違う事務職に変わるわけですから、業務上の必要性と本人を選んだ理由を誠実に説明することが重要です。
また本人のモチベーションも下がることもありますので、本人が力を発揮できるような環境づくりをすべきでしょう。
■ただし、2024年4月1日からは雇用契約書の記載が変わるので注意
2024年4月1日以降に労働条件を通知する場合は、「業務の変更の範囲」「就業場所の変更の範囲」を労働条件通知書や雇用契約書に記載する必要があります。
この「業務の変更の範囲」に「調理・接客」と記載してしまうと、調理と接客業以外には、職種変更できなくなると解釈されるので、注意が必要です。
業務の変更の範囲に調理・接客と書いてあっても、本人が「事務職でもOKと同意」してくれればよいですが、同意しない場合は、変更することができないと考えられます。
正直、正社員の労働条件通知書や雇用契約書は、定年まで有効な期間の定めのない契約(無期契約)の場合が多いので、20歳で無期契約の雇用契約を結ぶと、業務変更の範囲も40年以上も拘束されることになります。
ですので、業務の変更の範囲は、「会社が指定する業務」や「会社が指定するすべての業務」と全業務を指定できるようにしましょう。
36協定で定めている時間外労働の枠内かつ休日労働の回数の範囲内である必要はありますが、休日労働の回数に限度はありません。
残業代さえ払っていれば、休日全部出勤してもらってもかまいません。
もちろん、その結果36協定を超える時間外労働が発生した場合は、違法となります。
一般的に考えて、休日すべて出勤になってしまうような状況では、時間外労働も過労死ライン(月80時間の残業=だいたい月250時間労働)を超えてしまうことが予期されるので、注意が必要です。
当然、該当従業員の健康面には十分注意が必要です。会社としては、従業員に安全で健康には他空いてもらう安全配慮義務がありますし、労働局から過重労働削減の指導を受ける可能性もあります。
残業は、上司からの業務命令で行うべきことで、本来、自主的な残業は、労働に当たりません。労働に当たらないので残業手当は不要です。
しかし、自主的な残業は、ほとんど存在しません。
残業を店舗が黙認している場合は、自主的な残業も「労働」になるので、残業代を支払うべきだというのが、労働基準監督署の指導や多数の裁判例の流れです。
従業員が勝手に働いていたり、又はよく働く従業員の好意に甘えて働いてもらったり、はたまた従業員が仕事が遅くて残業してしている場合も、さらには家族とケンカをしていて家に帰りたくなくて残業している人にも、働いている事実があり、会社が残業を黙認していれば、残業代を支払わなくてはなりません。
他にも、「客観的に見て、勤務時間内に終わらないような業務を与えた場合」は、黙示の残業命令だとみなされ、残業代を支払わねばなりません。
このような場合は、「残業をするな」という明確な業務命令が必要です。
口頭で言っても証拠が残らないので、『残業禁止通知』とか『残業禁止命令』とかを書面で出すのがよいでしょう。
その場合、残業することが業務命令違反となります。
ですので、就業規則にのっとった懲戒処分の対象となります。
とはいっても、現実問題として、働いてくれている従業員に懲戒処分は酷ですし、好きで残業している従業員は稀です。
「〇時になったら、店舗の照明を落とす」など、強制力を持って、残業をやめさせてください。最初は嫌がられますが、時間を区切ることで、従業員が仕事のやり方を変えるきっかけになります。
経営者としては心苦しい面もあるでしょうが、勝手な残業をやめさせるには、心を鬼にして取り締まらなければ、最終的に未払いの残業代を支払わなくてはならないことになってしまいます。
なお、未払い賃金の時効は、2020年4月支払い給与から3年に延びましたので、3年分の残業代が請求される可能性があります。また訴訟等になり、裁判所が会社があくどいと考えた場合は、最大未払い残業代の2倍の金額を支払わせる付加金の課金の制度もあるので、注意が必要です。
◆15分切り捨て、時給の丸め計算は、違法?
飲食店では、15分単位で時給計算している飲食店が多いと思いますが、実は違法だと判断されることが多いんです。
原則として、労働時間は、1分単位で算定しなければならないとされています。
15分単位の時給計算や時間の切り捨ては違法です。
では、なぜ、15分単位で時給計算している飲食店が多いのか?
それは、運用次第で適法になる可能性があるからです。
◆なぜ、15分単位で時給計算している飲食店が多いのか
勤怠システムで自動的に15分単位で切り捨てになっている場合や、実際の労働の有無を確認せずに始業、終業時刻を15分単位で時給計算している場合は、違法です。
ただし、働いていない時間を労働時間から除くのは違法ではありません。
業務終了後、勤怠の打刻をせずに雑談していた場合、雑談している時間は業務ではないので労働時間から除外できます。
21時9分に業務終了の打刻があっても、21時00分に業務終了し、持ち場を離れ、雑談していた場合は、業務終了時刻は21時00分です。この場合は、勤怠の打刻を21時00分に修正して、労働時間を記録する必要があります。
ただし、ほとんどの飲食店では、スタッフの業務終了時刻を店長などの管理者がその場で確認することは難しいでしょう。
そこで行われているのが、業務の開始や終了時刻を〇分単位でスケジューリングする=「〇分単位で業務命令する」ことで、労働時間の管理をすることです。
15分単位で時給計算している飲食店は、業務時間を15分単位でスケジューリングし、そのワークスケジュールに沿った15分単位の定時打刻を指導する。
15分単位で時給計算をしている飲食店は「15分単位で業務命令」をしているのでしょう。
15分単位で業務命令をするとは、ワークスケジュールを15分単位で組むことや「21時5分まで業務をした場合は、新たに仕事を見つけて21時15分まで業務をしてから、21時15分で打刻するように徹底する」ということです。
店舗の全スタッフに理解してもらい、実際に15分単位での業務の念頭に行動してもらう必要があるので、就業規則、雇用契約書や店舗内の張り紙などで、「業務は15分単位で行うこと」「15分単位で業務命令すること」を明記して周知する必要があるでしょう。
◆15分単位の業務命令は可能か?
15分単位の業務命令をして、実際に15分単位で業務が行ってもらうことは、かなり難しいでしょう。
15分単位で業務命令をし、15分単位での定時打刻を徹底していても、実際に店舗スタッフのほどんどが、21時業務終了でも、毎日21時10分に打刻していれば、21時00分から21時10分までの10分間仕事をしていなかったと証明するのはかなり難しいでしょう。
10分間仕事をしていないかった確認を毎日していれば、21時00分業務終了としても問題ありませんが、確認できていない場合は、毎日10分ぶんの未払い賃金が発生していると推定されるでしょう。
15分単位での業務命令ができていれば、15分時給丸めや15分単位での給与計算は可能ですが、実現するには工夫や手間がかかるでしょう。
2022年6月に、大手ファミレスチェーンが5分単位勤怠管理を1分単位に切り替えることを発表しました。
労務管理の難しさや法令順守意識の高まりによって、今後は、飲食店でも1分単位の労働時間管理が主流になってくるでしょう。
法的に禁止されているわけではありませんし、業務への適正を把握するために必要であればOKですが、実際に内定前や面接時に健康診断を行うことは、なかなか人が集まらない飲食店としても、応募者の気持ちを考えるとハードルは高いでしょう。
厚生労働省では、就職差別につながる恐れがあるので慎重に行うことを呼び掛けています。
もちろん、NGとされる場合もあります。例えばHIV検査やB型肝炎等の感染性の低い感染症の情報などは、職務上特別な必要性がある場合を除き、取得すべきでないという行政の通達があり、裁判例でもHIVの無断検査を違法としています。
一方で、バスの運転手を採用するのに、てんかんや睡眠時無呼吸症候群などがあってはならないので、健康上のチェックが欠かせない職種の場合は、健康診断をすべきでしょう。
採用後、少しした後に持病が発覚するのはよくあるケースです。
そんなトラブルを避けるためにも採用選考時に健康診断したいという企業も多いです。
そこで、当事務所では面接時に「健康状態や既往歴のアンケート」を書いてもらうことを推奨しています。
例えば、過去1年の通院歴、うつ病、飲食店ではよくある腰痛、腱鞘炎などの有無を「ある なし 答えたくない」というような3択にし、任意で答えてもらうような形式にします。
さらに健康状態だけでなく、前職の退職理由、家族の介護、障がい者手帳の有無など聞きにくいこともアンケートにして採用選考時に書いてもらうとよいでしょう。
求人広告やハローワークの求人票に記載した労働条件が、そのまま採用時の労働条件にはなることを保障するものではありません。
求人広告は、あくまでも、たくさんの人に適用できるように大まかな労働条件を示して、採用する場合は、応募者の適性や能力に応じて、労働条件を明示して、雇用契約を結ぶものです。
労働条件が、求人票と異なる場合には、その旨をよく労働者に説明し、実際の労働条件を明示することが必要です。
また平成30年(2018年)1月1日の職業安定法の改正で、当初の労働条件が変更される場合は、変更内容を明示することが義務づけられています。
※昨今は、求人票と面接時に提示された労働条件が違うというケースが多く、ハローワーク等への苦情がかなり増えていますので、できるだけ求人票と同一の労働条件を提示することが求められています。
裁判例を見ても、副業(兼業)を禁止できるという考えと禁止できないという考え方があります。
禁止できるという考え方は、労働者が信義を尽くし誠実に労働力を提供する義務があるという民法の考えに基づいています。
禁止できないという考え方は、労働者が労働力を提供するのは就業時間中だけで、それ以外の時間をどう使っても労働者の自由だということです。
もともと裁判例等では、企業機密の漏洩や同業他社での副業で本業の事業に影響が出る場合や、本人が休みの日や退勤後に働きすぎて本業で力を発揮できない場合など、特定の場合のみ副業を禁止できるという考え方が主流です。
しかし、日本のほとんどの会社は、正社員の副業は禁止にしてきたと思います。
ちなみに働き方改革法案以前は、厚生労働省の就業規則のひな型も副業禁止の規定がありました(働き方改革法案施行後は、厚生労働省の就業規則ひな形の副業禁止規定はなくなりました。)
会社としては「副業禁止」のスタンスをとることもできますが、どんな場合に禁止して、ど
んな場合に認めるかの判断が必要になってきます。
では、どうすればいいのでしょう?
実務上は、情報漏洩や同業の飲食店での副業の可能性もあるので、兼業を許可制にするのがよいでしょう。
飲食店の場合は、同業で働くことで情報漏洩したり、店舗のノウハウをもらしてしまう可能性も一般企業より高いでしょう。
また、休日に労働することで、翌日の仕事に影響が出る場合も兼業の禁止や許可制は可能でしょう。
ちなみに、2019年の働き方改革法案(労働基準法改正等)の前後から、時間外労働の規制が厳しくなり、厚生労働省が副業禁止の方針を副業OKに方針転換してからは、大手企業をはじめに残業の抑制を始めています。
残業が減ると今までもらっていた給与(残業手当)がもらえなくなり、労働者の生活が苦しくなるということがあり、政府や厚生労働省も副業禁止の方向性を改め、副業解禁に方針転換しました。
もちろん、副業を禁止しても問題ありませんし、ライバル企業や同業他社で社員がアルバイトするのは、情報漏えい等の観点から禁止すべきでしょう。
会社の都合で従業員を休ませたり、途中で帰ってもらったり、一部を休業してもらった場合は、休業手当を支払う必要があります。
◆会社の都合で休業させるとは…
(1)取引先の撤退などでの材料不足での休業
(2)設備などの整備不備、欠陥、検査等による休業
(3)従業員数が足りない場合の休業
(4)経営難による休業
(5)監督官庁の勧告により休業する場合
上記以外も、会社の都合で休業した場合は、休業手当の支払いが必要になります。
「今日は暇なので、早めに帰ってください」というのも当然、会社都合の休業です。
◆休業手当は、いくら払う?
1日休んでも、一部休業でも、支払う金額は『1日分の平均賃金の6割』以上。
6割以上なので、6割しか払わない会社もあります。
法律上は、平均賃金の6割でもOK(本人には100%請求する権利はありますが)。
また支払うのは、1日の平均賃金の6割以上です。
1日の平均賃金が8,000円の人は、4,800円以上支払う必要があります。
全休の場合も、途中で帰った場合でも、6割(4,800円)払えば、法的には問題なしです。
◆1日8時間 時給1,000円、1日の平均賃金4,800円の人の休業手当
(1)1日全部休業させた場合 休業手当4,800円
(2)5時間働いた後、帰らせた場合 時給5,000円 休業手当0円
(3)4時間働いた後、帰らせた場合 時給4,000円 休業手当800円
※1日働いたら8,000円もらえる人を会社都合が休ませて、4,800円しか支払わないのですから、従業員さんには不満がたまりますので、経営難でない会社の場合は、6割ではなく8割や満額支払うことが多いです。
◆コロナの休業は会社都合か?
コロナウイルスの陽性になって従業員自ら休む場合は、自己都合の欠勤になるので、会社都合の休みではなく、休業手当を支払う義務はありません。なお、コロナの要請の場合は、健康保険の傷病手当金を申請できます。
新型コロナウイルスの休業要請での休業は、100%会社都合ではないので、休業手当を支払う義務があるか、と言ったら『ないです』と言いたいのですが、そうではありません。
コロナでの休業要請が出ても会社都合の休業、というのが厚生労働省などの基本的な考え方です。
新型コロナウイルスで休業要請が出ても、会社が営業するかどうかは、経営者が決める、という前提があり、営業と休業という選択肢から、経営者が休業を選択したのだから「会社都合だよ」という考え方です。
具体的には、会社都合かの判断基準は次の2つですが、これがややこしい。。
①その原因が事業の外部より発生した事故であること
②事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができ
ない事故であること
①はコロナは外的要因と言えるでしょうが、問題は②です。
②に該当するには、使用者として休業を回避するための具体的努力を最大限尽くしているかで判断するということです。
結局、コロナが会社都合かという判断は非常に難しく、100%会社都合とも言えないこともあり、厚生労働省としては、休業手当の要否の解釈にかかわらず雇用調整助成金で補填できるので、休業手当を払ってください、という感じになっています。
最終的に、コロナでの休業に休業手当の支払い義務があるかどうかは、裁判所(司法)の判断にゆだねられると言ったところでしょう。
なお、2022年4月時点の厚生労働省の考え方を踏まえた具体的な基準は、次のようになっています。
ケース | 休業手当の支払い義務 | |
コロナに感染した、陽性反応が出た | なし | 健康保険の傷病手当金を申請できます |
発熱があり、労働者が自主的に休む場合 | なし | 自主的に休んでいるので |
発熱があり、会社が大事を取って休ませた | 必要 | 会社主導の休業なので |
協力依頼や営業自粛要請での休業 | 必要 | 会社主導の休業なので |
家族がコロナにかかったため、休業させたい | 必要 | 本人が自主的に休みを申し出た場合は不要 |
コロナの影響で業務が減ったので休業させたい | 必要 | 業務がない=会社都合の休業と判断されます |
緊急事態宣言による営業停止要請 | 不要 | 不要だが、休業手当を支給して雇調金を申請 |
◆所定労働時間とは?
雇用契約書や就業規則で定められた1日の労働時間(1日何時間働くと決めたか)です。
口頭で雇用契約が成立した場合は、口頭で約束した1日の労働時間のことです。
飲食店のシフト制だと、「1日3時間から5時間程度で週3日くらい」とか、「1日5時間で週3,4日」とか、割とざっくり決まっているとことが多いと思います。
そんな時は、次の判断基準を参考ください。
(1)1か月の1週間の所定労働時間が一定でない場合は、1か月の平均で算出
1週間の所定労働時間が短期的かつ周期的に変動し一定ではない場合等は、当該
周期における1週間の所定労働時間を平均し、 週20時間以上かどうかを算出
します。
(2)所定労働時間が1か月単位で定められている場合は、1か月の所定労働時間を
12分の52で除して算出します
(3)所定労働時間が1年単位で定められている場合は、1年の所定労働時間を52で除
して算出。
(4)夏季や冬季などの繁忙期や閑散期などで一定期間の所定労働時間に長かったり、
短かったりする場合は、繁忙期や閑散期の特定の月を除いて『通常の月の所定
労働時間を12分の52で除して、1週間の所定労働時間を算出』
◆実労働時間にも注意
ただし、契約上の所定労働時間が週20時間未満でも、実労働時間が2か月連続で週20時間以上になり、なお引き続くと見込まれる場合は、3か月目から社会保険加入となると、年金事務所は指導しているようです。
『なお、引き続くと見込まれる場合』が要件ですので、対象の従業員と話し合い、3か月目から週20時間未満の実労働時間にすることを合意して、3か月目の実際の労働時間が週20時間未満になれば加入することはないでしょう。
◆適用拡大対象の従業員が常時100人超の会社とは?
厚生年金保険の被保険者の総数が 12 か月のうち、6か月以上100 人を超えることが見込まれる場合を言います。
ここで言う厚生年金の被保険者は、旧基準の4分の3要件(週30時間以上の従業員)の人数が101人以上ということになります。
なお、令和3年10月から令和4年8月までの各月のうち、厚生年金保険の被保険者の総数が6か月以上100人を超えたことを年金事務所が確認した場合は、対象の適用事業所に対して「特定適用事業所該当通知書」を送付するとのことです。
有給休暇の買い取りは、原則できません。
退職者が有給休暇の買取りを求めてきても、基本的には応じる必要はありません。
買い取りを認めると、会社は「お金を支払えば、有給休暇を与えなくて良い」という扱いをする恐れがあり、労働基準法の有給休暇の趣旨に反するからです。
ただし、退職日が決まっており、退職日までに有給休暇の残日数分を取得しきれなかったときは、会社が取得しきれなかった(消滅する)有給休暇を買い取ることは、違法ではないと解釈されます。
この場合も、通常の有給休暇と同じ100%の金額で買い取る場合は、有給休暇の趣旨に反するので違法とされる可能性があります。
消滅する予定の有給休暇を買い取る場合でも、8割や9割などの金額で買い取るのが適切でしょう。
■基本的には、手待ち時間=労働時間
手待ち時間とは、一つの作業が終わり次の作業をするまでの待機時間や待ち時間のことです。
この手待時間は、休憩のように労働から解放された自由時間ではないので、基本的には労働時間だと判断されます。というのも、作業が終わって待っている時間も、使用者から指示があればすぐ作業しなければならない状態=使用者の指揮命令下に置かれている状態だから、手待ち時間は、労働時間だと考えられます。
行政通達も、出勤を命じられて一定の場所に拘束されている以上、手待ち時間は労働時間であると解釈しています。
飲食店でホールスタッフがお客さんを待っている時間は何もしていなくても労働時間になります。
■監視・断続的労働の労働時間規制の適用除外とは
手待ち時間は、原則労働時間と考えられますが、「休憩は少ないが手待ち時間が多い業務」や「手待ち時間が実作業時間を上回るもの」は、『断続的労働』として、労働基準監督署に許可を取れば、労働時間とされません。
飲食店のホールスタッフの客待ち時間は、いつお客さんが来るかわからないので、断続的労働と認定される可能性は0に近いですが、生地を発酵するための時間などの手待ち時間が多いパン製造業務などは、労働時間の除外認定を受けられる可能性があります。
まあ、実際に、現代のパン屋さんだと、製法などを工夫して手待ち時間を減らしているでしょうし、ほかの作業をしていることもあると思うので、断続的労度の許可を受けることはあまりないと思いますが…。
■監視・断続的労働の労働時間規制の適用除外の許可の受け方
次の資料を準備し、労働基準監督署に届け出ます。
・断続的労働に従事する者に対する適用除外許可申請書(第14号)
・労働条件通知書・雇用契約書
・タイムスケジュール、勤務シフト
・業務マニュアル、業務日報等
・その他、出勤簿、賃金台帳、労働者名簿など
申請後は、労働基準監督署のヒアリングや現地確認などを経て、許可が下りれば、手待ち時間を労働時間から除外できます。
なお、断続的労働に該当する典型的業務は、「学校の用務員」「役員専属の運転手」「寄宿舎の寮母」などです。
■退職日までの有給休暇の申請は、認めるべき
本人からの申し出などで、退職日が確定している場合は、退職日より後の有給休暇の申請を認める必要はなく、買い取りも義務ではありません。
退職日確定後に、「有給休暇が余っているから退職日を変更したい」という従業員からの申し出があっても、会社は、応じる義務はありません。
退職日が確定するというのは、本人から退職の申し出があり、会社が承認した場合でしょう。
例えば、飲食店のアルバイトスタッフの場合は、一般的には退職日を店長に口頭で伝え、店長が承認したた時点で、退職日は確定したと考えてよいと思います。これは、一般的な飲食店は、店長がアルバイトの採用から退職までの人事権を与えられているからです。
一方で、社員の退職は店長だけでは、足りず、店長の上司や人事部長、場合によっては、社長や人事担当役員など、退職を決める決定権がある人の承認が必要なこともあります。
■退職日が確定していない場合は、どうなる?
退職日が確定していない場合は、有給休暇の使用を認めることになります。
例えば、「退職したいんですが、まだ退職日は決めていないです」とか「有給休暇を全部取得してから退職したい」と言われたケースでは、退職の日付が確定していないので、有給休暇の拒否は難しいでしょう。
※有給休暇の買取については、「Q25 退職予定の社員が有給休暇の買取りを求めています。応じるべきでしょうか。」もご参考ください。
■有給休暇の計算方法は、3種類
有給休暇の計算方法は、『通常の賃金を支払う』『平均賃金を支払う』『標準報酬日額を支払う』の3つです。
(1)通常の賃金を支払う
通常の賃金とは、出勤した場合に支払う金額、次の①+②の合計です。
①基本給や諸手当
・時給=時給×取得日の所定労働時間(働くはずだった時間)
・日給=取得日の日給
・週給=週給÷取得日の週の所定労働日数
・月給=月給÷当月の所定労働日数
②歩合給、インセンティブ、売上連動給などの金額の1日分
・賃金計算期間の歩合給総額÷賃金計算期間における総労働時間数×1日の平均
所定労働時間数=歩合給の1日分の金額
(2)平均賃金を支払う
直近3ヵ月の平均賃金を求めて、その平均賃金と同じ額を支払う方法です。
次の①②の高いほうを平均賃金として支払います。
①直近3ヵ月の賃金総額÷3ヵ月の暦日数
②直近3ヵ月の賃金総額÷3ヵ月の労働日数×0.6
(3)健康保険の標準報酬日額
労使協定を結んで、健康保険の標準報酬日額で払います。
標準報酬日額とは、健康保険に登録している「標準報酬月額÷30」で計算しま
す。
■歩合給などの有給休暇の金額の計算方法
インセンティブ、業績給、歩合給などは、労働基準法では『出来高払制その他の請負制』の賃金と区分けされ、計算方法が決まっています。
=1時間当たりの歩合給の単価」
月のインセンティブ、業績給、歩合給の合計 ÷ その月の総労働時間 × 0.25倍
インセンティブ合計額20,000円 ÷ 月200時間 × 0.25 = 25円
基本給や諸手当の時間単価に『25円』を加算します。
基本給や諸手当の単価が1,700円の場合、インセンティブの『25円』を足して、
1,725円がこの月の有給休暇の1時間当たりの金額になります。
すごくめんどくさいですが、インセンティブや歩合給の金額が変われば、有給休暇の金額も変わるので、月によって、有給休暇の金額は変わります。
〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内1-8-39 HP丸の内301
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平日9:00~18:00(電話受付時間 平日9:00~20:00/土曜・日曜・祝日 9:00~18:00)
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